2012.05.17 Thursday
「しつこい劣等感を退治する方法」についての回答
僕はスイスの演劇大学の「教授」に認定するという書類を貰った。どんな資格か分からないが、年に一度はウイーンに出かけていた。その後、白人の学生が数名、僕のところにやってきた。 僕はドイツ語はおろか、英語もほとんどできないから、稽古には必ず通訳がつく。 で、日本のWSと同じように円陣を組んでもらい、「何でも喋って下さい」から稽古を始める。無論、言葉が分からないから、彼らが何を言っているかさっぱり分からない。が、僕は指名されて喋った学生に「君には親切心がない」と言い放つ。はるばる東洋からやってきた日本人に「分からせたい」という愛がない趣旨を喋る。 通訳が僕の言葉を訳し終えると、学生たちは怪訝そうな雰囲気になる。「言語が違うから、分かるわけがない」から、どうしたらいいのかという戸惑いだ。 これがハッタリでも何でもなく、空気が一変するのは、3人目の学生ぐらいから。彼が喋った内容を、僕が分かり、「こう言ったでしょう」と、皆に披露するからだ。何もインチキをしているわけではなく、本当に分かるのです。学生は、一気に僕を信用する。 何もこれは、僕に特別の能力があるのではなく、スイスの学生と各地のワークショッパーズと、即興で芝居を組み立てて、それを舞台に上げるのだが、大抵、見事な芝居となる。無論、外人組はドイツ語で、日本側は日本語。 日欧混合チームは、結構、複雑なストーリーの芝居を、即興で組み立てるから不思議だ。 札幌のWSでは、中学生が爺さんを演じ、スイス人が孫の役どころだった。この孫が爺さんの金を持ち出すから、爺さんが困窮するストーリー。「お前が、時計を盗むから、わしゃ時間が分からん」と爺さん。孫役の白人は、謝ったり、不貞腐れたりしていた。孫役の「言い訳」は、万国共通だから、語彙が分からなくてもコミニケーションが出来るのだ。 面白かったのは小倉。NHKのレポーターが、参加してくれた。お洒落で美人で、完璧な標準語。その方とスイス人のやり取りは、さっぱり立ちあがってこない。両者が困惑するのみ。 我々、庶民には「語学教育」は、劣等感を植え付けるだけ、と僕は思っている。「語学」は地道な勉強をしなければ身につかないという「神話」が真実となっている。そんなもの「駄目な奴」は、駄目に決まっているのだ。「勉強しよう」としたって、脳内が拒絶して、別な事を考えてしまうからだ。 この「語学コンプレックス」はスイス人学生にもあって、むしろヨーロッパの人たちの方が、他国語に対する劣等感が強い気がした。彼らは、日常で「フランス語は喋れますか?」としょっちゅう問われるからだ。 だから、彼らこそ「語学のいらないコミニケーション」を面白がる。もっというと、自分を苦しめた「語学の勉強」からの開放が嬉しいのだ。 ここで、ドイツ語が分からない日本のWSの参加者と一体感が生まれる。「語学なし」で伝え合える事に、湧きだす喜びを感じるのだろう。「劣等感の裏返し」の喜び。 可笑しかったのは、スイス人の女性と、WS参加者が「恋愛もどき」の関係になった事だ。参加者の男性が、スイス人の宿舎である事務所に来て、稽古場の隅で、ずっと「即興劇の稽古」をしていた。中学生のような、初々しさと恥らいに満ちていたから、周りも優しく見守ったものだ。 「言葉が分からないからこそ」、互いの好意が伝わり合ったんじゃないだろうか。 外国人に演劇を教える度に、僕は通訳者に言う。僕の喋る内容は「日本人でも分かりません」し、それを「噛み砕いて伝えるつもりもありません」。大事なのは「雄三は、何を喋っているのだろう?」と思う事が大切であり、「理解より、理解不能の関係が大事」ということを、学生に通訳して貰う。この段階で、日本語にもなっていないから、翻訳が不可能なのだ。 「質問は受け付けません」とも言う。 僕は「語学のコンプレックス」を抱えて、外国でオドオドしている人を見ると、可哀そうに思う。僕は「アイ、アム、コーヒー」で過ごす事にしている。日常の不便さは、些細なことだらけで、どうでもいいことばかりと、僕は思っています。 コンプレックスを大切にしている人もいるので、その人を、僕は尊重するようにしています。皮肉でも何でもなく、例えば「赤面症」のまま、舞台に上がり、立ち往生してくれれば、素敵だと思うからです。 せんだっての、神戸のWS発表会では、劣等感が、観客の「優しい笑い」に包まれました。 「劣等感」は、そのままでもいいし、取り外したければ「止めればいいじゃないか」ということです。まぁー、僕に言わしたら「劣等感」って、趣味の一種ぐらいだろう。
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1946年・・・石川県白山市に生まれる。
2006年・・・兵庫県高砂市の教師とワークショップで芝居を作る。
スイス国立演劇学校(HMT)の教授となる。
ワークショップに関する本が何冊も出版される。
ワークショップに参加した人達、通称:「森田雄三チルドレン」が、ソーシャルネットワーキングサイト「mixi」(ミクシィ)でも多数存在し、ワークショップでの出来事・森田が話した内容「雄三トーク集」なるコメントがされている。
イッセー尾形の演出家。















