イッセー尾形の字の部分 演出家森田雄三 語録ブログ
森田雄三語録ブログ
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「雄三WSのメンバーが一人芝居を上演しました」

 富山の「雄三WS」の常連であるユウキさんが「一人芝居」を上演して、その映像を見た。それについての感想を書こうと思う。

「一人芝居」は出演する役者が、作品の責任を持つという形になっている。この場合いうなら、女優であるユウキさんが何を表現したかったかを問題にしたい。無論、僕の偏見と思い込みだが。

 簡単にいうなら、二人の登場人物が出てくる。「私」と「トミ子」だ。この二人は姉妹として育ったと「私」が言うほど「一心同体」である。が、3年前に「トミ子」は結婚して都会で暮らしているようだ。もはや「私」には音信もない。「私」は働きもしないで、結婚をせず、親の仕送りで暮らしている。

 仕事を失った「トミ子夫妻」が、「私の住む故郷」に帰ってくるところから芝居が始まる。「トミ子」は職探しをしなければならない。働いている「トミ子」と「私」は「生き方」についての議論になる。「生活の為に金は必要」というトミ子と「生活の為だけに働くのは嫌」という「私」で、意見で対立するが、これは「別人の意見」ではないのだ。現代人の多くの女性が抱えている共通の問題と言える。

 これを上演しようと思ったユウキさんは、根っこが同じ女性二人の空しい対立を描こうとしたような気がしてならなかった。僕はこの点を「面白い」と思ったのだ。一人芝居だから、この二人を演じ分けねばならないのだが、ユウキさんの演技には「演じ分けること」に力点がないのだ。むしろ逆に、観客が混乱するぐらい、どっちがとっちか分からない。劇場で見た観客には評判が悪かったろうと思った。が、ユウキさんは確信犯であって、演じ分けるのはどうでも良いのだろう。

 この芝居の題名が、夏目漱石の「それから」であるから、有名な作品の焼き直しであるのは間違いない。が、漱石の「それから」の主人公は男性であり、男世界の話で、主人公の「代助」が親友「平岡」の妻「三千代」を奪い取る話だ。

 この原作と一番違うのは、主人公の「代助」が、「私」という女性になっている点なのだ。あきらかにこの芝居を上演したユウキさんは、「生きる手ごたえ」が欲しいのは女性としたのだ。

 実家の父親は「働くのが嫌なら、働かんでもいい。お金はやる。結婚して子供を産め」と言う。その理由が振るっている「そうしないと暇だろう」だって。今の世の「ボランチア」の流行り方や「町おこし」を支えているのは「結婚しない女性」だろう。誤解が起こるから付け加えるが、そんな空気になっていると言う事ね。

 だからユウキさんの「それから」は現代劇なのだ。もっと言うなら、描かれているのは「結婚してもしなくても泥沼」であり、「働いても働かなくても泥沼」というのは、今の30代女性にとっては実感があるのではないかと思う。

 原作の「それから」のストーリーを借りて、親友の夫と愛を誓う場面をクライマックスにしているが、ユウキさんの芝居では取って付けたようになっている。

 一般観客には、「情けない幕切れ」と映るだろうが、致し方がないのだ。「生き方の泥沼」を感じているユウキさんは「一人芝居をする事」が、泥沼からの脱出なのだから、立派なクライマックスとと僕は思う。

 一般観客には「何が何だか分からない」詰まらない芝居にしかならないだろうから、僕が無理して褒めているように思えるだろうが、それは違う。

 舞台を演じたユウキさんは堂々としていた。これだけ詰まらないと思える舞台に立つのは「気が引ける」のが役者だ。簡単にいうと「他人の劇団」だと、こうは堂々とできないのを僕は知っている。ふざけけて面白くしようとしたり、見せ場を作りたくなるだろう。「面白くない芝居」を堂々と「面白くなく演じた」と言う点に崇高さがあると思う。

 多分、何人もの友人たちが、この芝居の成立に力を貸してくれたろうと思う。その人たちの「真面目な気持ち」に対して、僕はこの文章を書きたいと思ったのだ。何の利益がなくともユウキさんに「力を貸そう」と思った無根拠こそが「人の繋がり」だと思う。

 演出や見せ方の欠点はいろいろあるし、その直し方はプロである雄三が助言するのは簡単だし、ぐっと良くなるだろうが、そんな事をしても、互いに空しくなるだけだ。「詰まらない芝居」だからこそ、回数を重ねれば飛躍的に上達するし、独自の工夫も見つかるでしょう。大事なのは「この指止まれ」が「個人」であることなのだ。これを僕は「創作の原点」と思う。

 おためごかしで言っているのではなく、本当に起こるのだから。芥川賞の候補になっている作家山下澄人君は、20年前に僕のところに稽古に来ていた。山下君は奇特な人で「書くのを薦めたのは雄三さんだ」と、ブログに書いてくれている。「すぐ書け」と、山下君に紙と鉛筆を投げたんだって。僕は忘れていたが、鉛筆を投げるのは、いかにも雄三らしい。

 山下君が芥川賞をもらえると僕はうれしい。それはどんな理由でもいいから、皆さんに「創作して欲しい」からです。ユウキさんのこの「一人芝居」の上演も、僕の「山下君の芥川賞候補の自慢話」が、きっかけの一つになってくれていたとしたら嬉しい。富山で介護の仕事をしているユウキさんが、作家の山下君と繋がっていると思えればやる気が出んじゃないかな。「元気が出るもの」を総動員しても「演劇を続けるのは難しい」のです。始めてしまったユウキさんを、続けられるよう、外野席の僕らは出来る範囲で助力しましょうよ。

 

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+ 森田雄三プロフィール
1946年・・・石川県白山市に生まれる。 2006年・・・兵庫県高砂市の教師とワークショップで芝居を作る。 スイス国立演劇学校(HMT)の教授となる。           ワークショップに関する本が何冊も出版される。           ワークショップに参加した人達、通称:「森田雄三チルドレン」が、ソーシャルネットワーキングサイト「mixi」(ミクシィ)でも多数存在し、ワークショップでの出来事・森田が話した内容「雄三トーク集」なるコメントがされている。 イッセー尾形の演出家。
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