イッセー尾形の字の部分 演出家森田雄三 語録ブログ
森田雄三語録ブログ
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「山下君の芥川賞効果」が、僕のところにも表れた

 カフェによく来ていた30代半ばの美形の女性がいた。当初はカフェにあった「ピアノを弾かせてください」と、音楽大学を卒業したらしい感じだった。「話し掛けてくれるな」のオーラのある人だった。エリート臭かったってことね。ピアノがなくなってからもカフェに来て、物静かに座っていた。

 カフェで行われる「雄三WS」に興味が出たらしく、稽古のたびに顔を出すようになった。「通りすがりの人」が芝居を演じたり、稽古後の食事や酒を囲むのがいつもの事だ。そのうち、澄ましていた彼女も、楽しそうに笑うようになっていた。が、彼女は来なくなったが、記憶に残らない人だったのだろう、僕は覚えていない。

 その女性が、今朝、カフェのテーブルに座っていた。清子の「前にWSに来ていた子だって」とか「名古屋からわざわざ来たのよ」と言われた。

 彼女には気品があって物静かなオーラはなくなっていた。自分のペースで生きられなくなったのだろうと僕は直感した。「歌のレッスンに東京に来たんです。すぐに帰ります」と、愛想笑いたっぷりの笑顔だった。用件があるから笑顔が崩れるのだ。清子が「レッスンの帰りに寄りなさいよ。新幹線まで送って行くから」の言葉に、何の疑いもなく出て行った。

 夕方、彼女がカフェに戻ると、ちゃんと僕の正面に対峙する。そして僕の目をのぞき込む。悩みを抱えているのだが「どう切り出していいのか分からない」と、僕は受け取った。もはや気品も物静かさのかけらもない。

 そして彼女は山下君が芥川賞を取ったのを知っていた。どうにも抜け出せない「日常」に捕まって身動きが取れなくなったのだろう。

 ときたま、この手のタイプの人が現れるから、スタッフはよく知っている。こんなオーラが清子の「新幹線まで送って行くよ」に繋がったのだろう。

 聞けば、彼女はピア二ストを目指して若い時期を過ごしたが、ハケンの事務職で長く勤めたが、名古屋へ転勤になったという。名古屋は故郷でもなんでもない。「残業はあるの?」と聞いたら、首を横に振った。夕方、5時6時には退社するということであり、ワンルームマンションで夜を一人で過ごすという事だ。で、学生時代から続けているピアノのレッスンに月に一度、東京に通ってるらしい。

 これは僕が想像した彼女の暮らしであり、彼女が喋ったわけではない。

 20歳代は「努力すれば…」音楽家になれるという展望があり、若さもありイザとなれば「結婚すればいい」という逃げ道のイメージもあったに違いない。が、今は絶望している気がしてならなかった。

 僕が「創作をすればいい」というだろうと思っている彼女は「山下さんで、才能があったんでしょう?」と真剣に聞いてきた。僕は「才能がある」って誰にでも言うよ。その答えに彼女は大笑いしていた。

「小説を読んでいない人」ほど書ける。とも言ったら、彼女は「どうして?」とか「何で?」と、繰り返し質問してきた。彼女は「プロを目指すほど、ピアノも稽古に打ち込んだ」のだろう。その「努力が無になる」という問題を抱えているからこそ、一人で悶々としているのだ。僕は「ピアノを止めなさい」とは言わないが、ピアノで収入を得るという希望は実現しないだろうと言った。僕の演劇仲間は、収入がなくて芝居を止めている。秀吉が使った「兵糧攻め」で、人生を挫折するのは馬鹿馬鹿しい。人並みに働けばいいだけだ。

 彼女の人生については何も聞いてはいないが、彼女が望んでいるだろう「コンサートホールでの演奏」は無理ということだ。が、彼女が獲得した「ピアノの技術」を生かす道を捜した方が現実的だと言いたいのだ。出来る範囲での「ライブ活動」を婉曲に勧めた。自分の現実の条件を見据えて、そんな中で「どうやって創作するか」が肝心であり、そこ以外に「創作」の出発点はないのだ。これは僕の持論だが、そんな事は彼女には言わなかった。

 現状を嘆くより、やってみればいいだけであり、向いてなければ続かないだけだから、何も悩むことはない。これまで沢山経験した「三日坊主」の一つに過ぎないだけだ。やる気が起きる時もあれば、嫌になる時もあるのは当たり前ではないか。

 人生は長く、平均寿命は80歳を超えているから、音大出の彼女にしてみれば50年以上先があるという事だ。そんなもの「ピアノの演奏」でも「小説を書く」「芝居をする」でもやってみればいいではないか。そして、すぐに飽きるのが肝心。だいたい誰しもが飽きるに決まっているから、自分を責めたり、教師や仲間を恨んだりしない事だと思う。金をだまし取られるだけのことで、まぁー「金がかかるもの」は胡散臭いとした方が正解だろうね。今の時代は「向上心」が金儲けの商売になっているからね。

 彼女の出現は「山下君の芥川賞効果」が現れだろうと、僕は思っている。彼女が「創作に生き甲斐」を見つけるよう助力するのが、僕が出来る事と信じています。人生には「想定外のひょんなこと」が起こるののです。良いにしろ悪いにしろ、向こうからやってくるのだから、人生を生きる当事者である本人には責任のない事ばかりといえる。70歳まで生きると、やってくる偶然を面白いと思うようになるんですよ。

 

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+ 森田雄三プロフィール
1946年・・・石川県白山市に生まれる。 2006年・・・兵庫県高砂市の教師とワークショップで芝居を作る。 スイス国立演劇学校(HMT)の教授となる。           ワークショップに関する本が何冊も出版される。           ワークショップに参加した人達、通称:「森田雄三チルドレン」が、ソーシャルネットワーキングサイト「mixi」(ミクシィ)でも多数存在し、ワークショップでの出来事・森田が話した内容「雄三トーク集」なるコメントがされている。 イッセー尾形の演出家。
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