イッセー尾形の字の部分 演出家森田雄三 語録ブログ
森田雄三語録ブログ
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「タエシマ君が小説を書き始めた」

 暮れに神戸から東京の「楽ちん堂」に、タエシマ君が訪ねてきた。彼とは20年以上の付き合いになるだろうが、彼の説明は難しい。知っている仲間では「タエちゃんのよう」と言えば、共通のイメージが湧くが、「タエシマ君」自体が形容詞なのだ。だいたいは「駄目なヤツ」と思ってください。そして彼を前に「お前はダメなヤツ」と言うと、タエシマ君は満面の笑みで喜ぶ。タエシマ君は「ダメなヤツと言われるのだ好き」なのだろう。

 正月の間、「小説を書くよう」に僕は薦めていたのだが、彼は真剣な頷きをしながら酒を水のようにあおっていた。

 書きかけの原稿を今朝送ってきたのだが、僕はとても面白く、最後まで書けるだろうという気がした。何故僕は「彼が最後まで書けると予感した」のだろう。今朝から、彼に「感想を送ろう」と思うのだが、書けない。だからタエシマの小説の事を、ここに書いて公表しようと思った。このブログを書けば、思いつくだろう。それぐらい、「どうダメ出しをしていいかわからない」のだ。

 小説の話に入る前に、タエシマの奇天烈さを読者の皆様に分かってもらいたいと思う。うだつの上がらないサラリーマンを想像してください。テレビドラマの中のサラリーマンではなくて、ラッシュアワーにもみくちゃにされ、目に入っても記憶にとどまらないしょぼい勤め人ね。タエシマ君は勤続20年のキャリアを持ち、マンションを買っている。郊外の都市の支店長になり、通勤に長い時間が掛かるが自宅から通っている。高校に入る娘と、中学生になる息子がいて、奥さんはパート仕事や手内職で生活を支えている。彼は「ダメな勤め人」に見えるが、社会的には「立派な人」とも言える。

 僕はタエシマ君に小説を薦めたのは、彼は「終電で寝過ごし、終着駅まで行き、始発で自宅に戻る」と聞いたからだ。彼に確かめると「多いと週に三日になることもありますね」と答えていた。誰しも「何で?」と疑問が湧く。もう何年も続いているらしく、「女でも居てくれた方が分かり易い」と奥さんに言われるらしい。

 毎日家庭に戻るのだから「家族がイヤ」ではないだろうし、毎日会社に行っているのだから「仕事がイヤ」でもないだろう。

 なぜ彼は「そんな頻繁に電車で寝過ごす」のか、僕には分からない。正月にじっくりとタエシマの「寝過ごす話」を聞くと、嬉しそうに、笑い声を出しながら話すのだ。彼にとっては「自分の寝過ごす話」が面白くてしょうがないのだろう。彼は昔っから「失敗談」を話すのが好きだったが、「電車を寝過ごす事」のどこが面白いのか僕には分からない。

 が、これは「創作の作品」になると、僕は直感した。言葉を代えると「生き甲斐になる」と言う事だ。自分の駄目さを「生き甲斐にしている」と言えばちょっとは分かってもらえるかな。理屈っぽく言うと、「皆に褒められること」を生き甲斐にする人っている。その逆に「嘘つき」で、虚言に喜びを見出す人もいるのは確かだ。「女たらし」や「大ホラふき」の類だろう。だから「自分の駄目さ」を愛する人がいても不思議じゃない。

 だが、タエシマ君は「自分の駄目さ」をアピールするわけじゃない。言うならば「大人しいダメな人」なのだ。

 僕はタエシマ君を「オタク」と捉えている。「ダメな自分を愛する」という趣向の者が分かり合い、密かに温め合っているのではなかろうか。

 同性愛者が市民権を得る時代になったのだから、「ダメ男趣味」も、世間に出てもいいのじゃないかと、僕は思っている。言うならば「女装趣味」と捉えれば分かり易いでしょう。奥さんも子供もいるのに、女物の衣装を着る喜びの人って少なくないとか。「女装趣味」じない一般人にはまるで理解できないが、そんな欲求が湧いてくるののだろう。

 タエシマ君の言葉を借りると、終着駅で車掌に起こされて、それが田んぼの中へんぴな駅だったりする事もあるそうだ。手持ちの金がなく、コンビニもなかったら、歩くしかないんだって。歩かないと凍え死ぬと思うんだって。

(本文より)

 二キロぐらい先に、ガストありますけど、2時までだったと思いますよー。ありがとうございますって、店出たら、とにかく寒いんで、二キロ先のガストに走るようなペースで向かうと一瞬で着くんだけど、1時過ぎだから、コーヒー一杯に400円ぐらいだして、小一時間あったまって、2時に追い出されるって、考えたら、店に入れなくて、突っ立ってたら、寒過ぎてね。涙がツーって、垂れ出したら、足が勝手に動き出すんすよ。体温が下がり過ぎて、このままだと死ぬぞって体が反応してるんでしょね。右足、左足って、あてもないのに猛烈な速さで歩き出すから、腹くくって、夜通し歩いて姫路を目指そうって。一時間くらい歩くとやっと、寒くなくなるから、あ、俺いける、死なんって。朝まで線路沿いを歩いてたつもりなんだけど、うねってたんだろね。二駅しか進んでなくて、英賀保から始発に乗って、家帰って、出勤。

 

 僕は「創作にとっての大事な事」は、「自分の不思議さ」であって、タエシマ君のケースでいうと、「なぜ電車で寝過ごすのか?」だと思う。分かっている事を書こうとすると「物書く奴隷」となってしまい、素人には絶対書けない。分かり易く言うと「創作は恋愛」のような物で、ほっといても「好きな人」が思い浮かぶでしょう。「なぜこんなに好きなのか?」「いっそ忘れてしまおう」などなどで悶々とする。「恋愛を出来ない人はいない」ように「創作」も出来ない人はいないのです。

 「自分の不思議さ」に興味はない人はいないのに、「あなたは○○な人です」と規定されると落ち着くのが社会生活でもある。

 (追伸)

 タエシマ君へ。

 洋服屋の店員のアルバイトの話が出てきたら、連続してるバイトの話が続いた方がいい。「道場で座禅のような事した」とも言っていたじゃないか。舐めるように「自分のダメさ」を思い出した方がいいよ。

 詰まったら風景描写(現在)を書くように、そうすると「なんかを思い出す」から。この記憶の断片の分量が、全体を支えていて素晴らしいと思う。山下君流に言うと「リズム」ね。読者に分からせようとしたら「リズム」は崩れる。

 

 

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+ 森田雄三プロフィール
1946年・・・石川県白山市に生まれる。 2006年・・・兵庫県高砂市の教師とワークショップで芝居を作る。 スイス国立演劇学校(HMT)の教授となる。           ワークショップに関する本が何冊も出版される。           ワークショップに参加した人達、通称:「森田雄三チルドレン」が、ソーシャルネットワーキングサイト「mixi」(ミクシィ)でも多数存在し、ワークショップでの出来事・森田が話した内容「雄三トーク集」なるコメントがされている。 イッセー尾形の演出家。
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