イッセー尾形の字の部分 演出家森田雄三 語録ブログ
森田雄三語録ブログ
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「一人ぽっちと創作」

 10年以上の付き合いがあるAさんが、我々の楽ちん堂に泊まりに来た。地方都市に住むAさんは会議の為に上京して、明日からヒルトンホテルに4日間缶詰だという。Aさんは大企業のバリバリの営業マンだ。

 僕は大企業の事は知らないが、背広の脱ぎ方が違う。脱いだ背広を裏返し、両肩のところをつまんで折り畳み、座っている膝に掛ける。浅く腰掛けた椅子から身を乗り出し、「話を伺いましょう」と言う体制に入る。何年もこんな仕草をしているのだろう、一瞬に感じられる。これがAさんの戦闘態勢であり、皺ひとつないスーツが戦闘服なのだろうと感心する。

 Aさんは大枚な寄付を定期的に下さる、我々の支援者でもある。

 「女房と別れて暮らすことになりましてね、今は一人暮らしなのです」と言う。

「まだ誰にも言ってないんです」と言いながらも、きっぱり整理がついたろいう口調だが、顔色は悪い。

 僕を「人生の相談相手」と思っているらしく、前回現れた時は「転職の相談」だった。まぁー話を聞きますわね。だが、「見も知らぬ奥さんの悪口は聞きたくない」し、だからと言って「自分はサッパリした」という余裕を聞かされるのも嫌だ。

「引っ越すとすぐにNHKの集金人がやって来たんですよ。インターホンを押すとカメラに頭の天辺しか映ってなくて、奴ら玄関のカメラを意識して、最敬礼をこっちに見せるんですね」

 僕は、すぐにAさんの話を止めさせた。別居か離婚か知らないけれど、Aさんにとっての思いは「NHKの集金人」のレベルではないはずだ。営業マンの「つなぎの話」を持ち出されても困る。

 「Aさん、あなた新居に移ってボンヤリしていたでしょう」。多分、梱包のままの段ボールの間で、日が落ちるまで座っていたに違いない。そんなリアルな事はどうでもよくて、「頭の中が、現実の『今』とは違うところにあった」という事が大事だと僕は言いたかったのだ。「ボンヤリして記憶がない」からショックなのだ。その時何を思ったか「さー思い出せ!」と、僕はWSのような事を始めた。

 人間にとっては「意味のある営業成績」や「幸福と思っている家族生活」も確かに大事なのだが、「自分を何も感じない」とするのも、僕は重要と思っている。「一生懸命さ」と「何をしているのだろう」のような無力感が、人生の両輪で車は前に進むのだ。そして「無力感」から出発するのが「創作」だ。

 「Aさんには、今こそ創作の機で、二度と訪れませんよ」と、励ますというか叱った。僕は「創作」が「人生を救う」と信じているのです。

 Aさんは、長くボンヤリした後「家族で炬燵に入っていた時、何にも話がなくて、みんな黙ってましたね」。「いいねぇー」と言うと、「背中が曲がった婆ちゃんと、前を見つめた爺ちゃんと、下を向いている叔母さんがいたな」「列車が鉄橋を渡る音が急に大きく聞こえてきていたから、雪が積もった月夜の晩だったんだろう」「火元の煉炭が消えると、暗い座敷の布団に入ったなぁー。あっ、小っちゃい電球が付いてた」

 と、子供の頃の思い出をポツリポツリと話始めたが、興に乗り出したのだろう、「お釜にこびりついたオコゲを、婆ちゃんがいつも食べてて…、しゃもじでそのオコゲを食べさせてくれたら、おいしかった」とも言っていた。「最後に炬燵を出ると、婆ちゃんの『蒲団上げといて』のしわがれた声がして、炬燵の布団を台座にあげた。そうしないと、猫が勝手に入ってきて、炬燵のぬくもりで出て行かないから。あの頃はどの家も玄関の鍵を閉めないから、猫が入ってきてね。玄関の引き戸には猫の爪痕が一杯あったよ」

 Aさんは、妻と別居し「これまでは家族の為」と思ってやってきたことが、崩れてしまったのだ。そんな現実に遭遇したのだ。そんなもの、慰めようも励ましようもない。本人が「喋る事」などどうでもいい。本人の想定より「大きな嵐」がやってきたのだ。

 時間をかけて「いつの間にか忘れる」という方法しかはないのは知っているが。生きていれば「誰しもに起こる突発時」なのだ。「予期すること」と「実際に起こる事」は全く違うのだ。「片足がなくなる想像」と、「片足がない現実」は全く違うのだ。時間をかけて忘れる為には「妻を責めること」や「自分をさいなむこと」のつらい目を見なくてはならない。「時間をかけて忘れる」というのは「自分に起こったことは大したことじゃない」となる為だ。自分の事が「他人事」のうになるという事でもある。

 Aさんの子供の頃の話を聞くと、「自分は独り」というのがしみじみと伝わってくる。、だから自分以外の「人が居る」と嬉しいのだ。僕は「死病」を3回宣告されたから、よく分かる。「他人がうるさい」と「人が居てホッとする」は紙一重なのだ。

「孤独」にならなければ、「人がいる空気」の有難たさは分からないと思う。

 Aさんに「小説を書くよう」に言ったが、彼は「一人っきりの部屋」で、もしかしたら「小説を書く」かも知れないと思った。

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まぁ〜だだよっと。
書く気がしない。
| SM | 2017/06/16 11:29 PM |










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+ 森田雄三プロフィール
1946年・・・石川県白山市に生まれる。 2006年・・・兵庫県高砂市の教師とワークショップで芝居を作る。 スイス国立演劇学校(HMT)の教授となる。           ワークショップに関する本が何冊も出版される。           ワークショップに参加した人達、通称:「森田雄三チルドレン」が、ソーシャルネットワーキングサイト「mixi」(ミクシィ)でも多数存在し、ワークショップでの出来事・森田が話した内容「雄三トーク集」なるコメントがされている。 イッセー尾形の演出家。
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